2023年新年のご挨拶 北本大 令和3~4年度会長

“未来は予測できないけれど、

まずは一歩”

新年、明けましておめでとうございます。私の干支は、(風貌からは想像できないかと思いますが)「卯」です。ついに6巡目を迎え、人生の後半戦がスタートします。諸先輩が常々言われるように、社会人になってからここまではあっという間の出来事。私の場合、「あくせくと、一心不乱に走り抜けた」とは言い難く、色々な方々と楽しく交流しているうちに、世の中が淡々と進んでいったとう感覚です。

これまで各種の研究開発や対外的な活動に携わりましたが、結局のところは、「オレオサイエンをベースに、快適生活を支える新しい技術・製品の開発」に取り組んできたと言えます。特に、「バイオ界面活性剤」に関する研究は、当初の想いに反し、ライフワークになってしまいました。界面化学に素人の私が、黎明期のバイオプラスチックの研究に刺激され、この研究を開始したのは1990年よりも前で、まだまだ石油化学製品が全盛の頃。同時に、各メーカーが不断の努力のもと、合成界面活性剤の環境負荷の低減を大きく進めていました。そのため、当学会の諸先輩の方々からは、「そんなバイオ素材は不要」、「ニーズがない」、「コスト的に話にならない」等々、随分と激励を頂きました。

しかし、今世紀になってから少しずつ潮目が変わり始め、2010年頃からは「循環型社会」や「SDGs」は常識となり、特に欧州ではパーソナルケア製品類に関してはかなり早い時期から、「ボタニック」や「オーガニック」が前提とされてきました。そして数年前の海洋プラスチック問題が大きなトリガーとなり、現在では化学品における原材料転換や「サーキュラーエコミノー」が、全世界で最重要な課題となっています。

私達が始めたバイオ界面活性剤に関する研究は、時代の追い風や基礎技術の進歩と相まって、企業との長期間の連携を経て製品化・事業化へと繋がりました。当初は、化粧品素材での上市でしたが、現在ではパーソナルケアやアグリ分野まで、国内外で製品展開が広がっています。また、ユーザーニーズの拡大とともに、海外の大手企業も続々と当該分野に参入して競争が激しくなっており、この研究に着手した時に比べると隔世の感があります。

「新しい技術は、導入が早すぎると市場に受け入れらない」とよく言われ、どのタイミングで踏み出すかの判断は容易ではありません。当然、今見えているニーズや市場は、いつまで続くか分かりませんし、始めた研究が必ず成功するか否かも同様です。以前、ある企業の経営層の方から「絶対に失敗しない研究開発とは、絶対にやめないことですよ(要は、失敗という結末が永遠にこない)」と伺ったことがあり、「経営的にはNGでも、他に正解はないか」と妙に納得した記憶があります。今更ではありますが、「未来は予測できないけれど、まずは一歩、そして歩き続けよう」が、成功への入り口でしょうか。

さて、昨年末には第8波が到来しコロナ禍は引き続きの状況ですが、会員の皆様の広範なご理解とご協力のもと、昨年も学会創立70周年記念となる年会を始め、各種の行事を成功裡に開催することができました。関係者の皆様には、改めて感謝申し上げます。今年は、これまでの経験値を生かして、「快適生活を支える」学会の活動の幅をさらに広げていきたいと思います。今年の年会は、高知県内にて対面での開催予定です。皆様との久しぶりの再開や交流を楽しみにしておりますので、是非ともご参加頂ければ幸いです。

昨年、年会の挨拶でも言及しましたが、当学会は生活に密着した科学や技術を扱う人々がオープンな雰囲気で行き交う交差点であり、新しい日常や快適生活に資するサイエンス、製品・サービスの創造の起点になり得るユニークな組織です。このビジョンのもと、「卯のヒト跳ね」のように「まずは、一歩」で、2023年も皆様にとって素晴らしい年となることを、お祈り申し上げます。