会長就任のご挨拶

河 合 武 司
公益社団法人日本油化学会 平成29年度会長
東京理科大学教授

この度、第63回定時総会の折に開催された理事会で平成29年度の会長を仰せつかりました。身に余る大役ですが、伝統ある日本油化学会の発展に貢献できるように尽力する所存です。本会は油脂・脂質、界面活性剤およびそれらの関連物質を様々なアプローチで取り扱っている研究者・技術者のネットワーク組織であり、産官学の学際的な人材から構成されているのが特長です。つまり本会は、最先端の機能性材料から生活の質的向上を目指した日用品や健康維持の食品開発までの幅広い研究の"種"や"問題解決のヒント"を得る機会を提供できる組織です。

 本会員の専門は油脂分野と界面分野に大別することができますが、会員が本会を有効活用するためには有機的なネットワークが構築されていることが重要です。現在、専門部会がその中心的な役割を果たしていますが、油脂分野と界面分野の繋がりが弱いように思います。両分野の関係は太いパイプで繋がっている車の両輪というよりは、少し機能不全を起こした右脳と左脳のような関係と思います。つまり、普段はそれぞれ独自の活動を通して油化学の発展に貢献し、両分野の有機的な繋がりが生じるのは主として支部活動と年会くらいで、両分野の間には薄い壁があるように見受けられます。私自身、反省を含めて過去から現在を振り返ってみると、油脂分野を意識したのは、フレシュマンセミナー用教科書の編集、支部のセミナー企画や年会のプログラム編成などに関わった時と非常に限定されています。そこで会長として、本会をさらに魅力的な交流の場とするために、両分野の交流を促すような仕組み作りに取り組んでいきたいと考えています。

 日本油化学会の状況を概観すると、年会や支部・専門部会活動などの研究・人的交流、フレシュマンセミナー等の学術振興・普及活動などは会員皆様方の積極的な貢献によって概ね順調です。しかし、運営委員長として昨年度6月号の本誌巻頭言でもお知らせ致しましたように、会員減少を主因とする恒常的な赤字のために財政的にたいへん不安定な状況です。この状況から脱却するために、産業技術総合研究所 北本大先生に将来構想委員会 委員長をお願いして、日本油化学会の成長戦略を練って頂きました。その総括は定時総会の際に「日本油化学会の持続的な発展に向けての提言」として報告して頂きました。

 将来構想委員会では、2000年に「ミレニアム委員会」から答申された内容 "本会の活性化に必要な諸施策" の検証からスタートし、本会の体制・活動について総括的に議論を交わされたと伺っています。日本油化学会の位置づけを「オレオサイエンスを切り拓き、快適生活を支える科学者と技術者の交差点」という分かりやすいキャッチフレーズで表現し、さらに日本油化学会の再生に向けた改革案・強化策について焦点を絞って提案して頂きました。いくつかの提案の中でも「会員数の増強より、まず年会参加者数の増強を図る」という方針を改革の柱に据えることが重要であるとの助言を頂いています。そこで、本年度発足させた年会改革推進委員会(委員長:新運営委員長 (慶應義塾大学)朝倉浩一先生)で年会改革の戦術を立てて頂き、随時実行に移し3年程度で完了させたいと考えています。本年度の年会が東京理科大学の神楽坂キャンパスで第2回アジアオレオサイエンス会議と同時開催することは、前々号の巻頭言で酒井秀樹先生(東京理科大学)からご案内がありました。多くの会員の方が年会を盛り上げて頂くことが改革の第一歩ですので、是非ともご参加下さいますようお願い申し上げます。

 さて、会長として心がけたいことは、これまで築き挙げてきた伝統と歴代会長の意志をできるだけ継続できるように努めることです。しかし、将来構想委員会の提言をご覧頂ければわかりますが、本会が置かれている現状は既存の枠組みにとらわれず、白紙の状況で最適な方法を取捨選択していく「ゼロベース思考」を必要としていますので、これまでの慣習を断ち切る判断を迫られることも十分に予想されます。その際には何卒ご協力の程、宜しくお願い申し上げます。

 堅苦しいことを述べてきましたが、本来私はそのようなタイプではありません。また油化学自体もフレンドリーな集まりですので、肩の力を抜いて、上記のことに取り組んで参りますので、ご支援の程どうぞ宜しくお願い致します。