会長挨拶
岡野 知道
公益社団法人日本油化学会会長
ライオン株式会社 執行役員

就任のご挨拶 2023年5月
この度、第69回定時総会ならびに第459回理事会にて令和5年度の会長を仰せつかりました。誠に光栄のかぎりです。産業界に身を置く浅学の自分にこの大役が務まるものかと甚だ緊張しておりますが、産業界からの会長の就任は平成12年度以来23年ぶりという責任の重さも踏まえて歴史ある日本油化学会の未来に全力で向き合う所存です。ご指導、ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願いします。
未来に向けてまず取り組むべきことは、3年以上にも及んだ新型コロナウイルスパンデミックもようやく落ち着きを取り戻しつつあることを踏まえて、新しい学会活動の形を創出することです。行動制限や対面制限が学会活動に及ぼした影響は決して小さなものではなく、多くの重要行事が中止や縮小、開催方法の変更を余儀なくされました。しかしながらこの経験の中で得たものもあります。日本油化学会においてもデジタル技術を積極的に取り込み、昨年8月に開催されたWCOS 2022では、WEB会議の特長を活かして、国内からの多くの研究報告はもちろん、新たな試みとなる選抜講演の開催、米国油化学会(AOCS)との共同で開催したジョイントミーティング、ISF Lectureship Seriesと多くのプログラムを準備して盛会に終えることができました。とはいえ、学会に期待される重要な役割のひとつは新しいネットワーキングであり、学術的な議論の深化です。オンラインの利便性やコストメリットは活かしつつも、これらの本質的な機能を十分に発揮できるように、令和5年度の年次大会は4年ぶりに対面形式で実施する予定です。懇親会もその時の社会環境には配慮しながらも実施する方向で関係者は努力を進めて下さっています。皆様の積極的なご参加をぜひともよろしくお願いします。同様に、各種セミナーやイベントもリアルとデジタルを上手く併用しながら活性化してまいりますのでご期待下さい。
もうひとつ未来を考える上で重要な課題と考えていることが、日本油化学会を構成して下さっているすべてのステークホルダーの皆様にとっての存在意義を再確認するとともに、会員数減や財務逼迫などの難しい課題にも目を背けずにしっかりと道筋を作って取り組むことにより、学会としてのサステナビリティを強化することではないかと考えています。
日本油化学会の主力英文学術誌であるJournal of Oleo Scienceは多くの先生方のご尽力により世界各国の研究者が無料でWEBアクセスでき、取得内容を2次利用しやすい環境を整えて一流のオープンアクセス誌としてDictionary of Open Access Journalに収載されました。また、Impact Factorも1.628まで向上させることに成功しています。日本油化学会の特徴のひとつは、油脂と界面科学を基軸に発展してきた学術領域としての裾野の広さと、基礎技術から応用技術まで同じプラットホーム上に存在する実現力の高さです。上記はこの強みを活かすための重要な武器ではないかと考えています。米国油化学会やアジアの研究者に対して積極的に働きかけて国際化を加速させるとともに、今後は健康や環境関連を中心に学術領域をシームレスに跨いだ取り組みが主流になりますので、先陣を切って他学会との取り組み方にも革新を起こしたいと考えています。
一方で、企業および企業研究者の構成比率が会員数、財務構成の両面で高いことも日本油化学会の特徴です。事業環境変化が激しいこれからの社会において、企業にとっての学会の有益性も大きく変化することが予想されます。適切な表現ではないかもしれませんが、投資価値が高い学会という形を模索してみる必要もあるのかもしれません。この点についても幅広い多くの方々と対話を持ち、短い任期の中ではありますがデザインを試みたいと考えております。
私は30年以上前の学生時代から日本油化学会にお世話になってまいりました。今の自分があるのも多くの大先輩方より頂戴したご指導のおかげと感謝しております。今回の会長就任のお話しは恩返しの機会と捉えて未来志向で取り組んでまいります。皆様のご理解、ご協力を賜りたく、何卒よろしくお願いいたします。