過去のお問合せと回答

基準油脂分析試験法 2.1.5-2013 夾雑物

・ 備考①に「米ぬか油の場合は温キシレンを用いる」と記載されていますが、実際、何度にするとよいでしょうか?

回答  40~60℃を目安に実施ください。実際には、精製米ぬか油に夾雑物はほとんど含まれないため、本法は米ぬか原油に適用されています。キシレンは、ヘキサンで代用できる可能性がありますが、 同等性は各機関で確認ください 。

基準油脂分析試験法 2.3.1-2013 酸価

・滴定に用いる水酸化カリウム標準液には、飽和の水酸化バリウムを入れると記載されていますが、水酸化バリウムを含まない、 市販の容量分析用溶液は使用できますか?

回答  基準油脂分析試験法の試薬・試液等の調製法では、 酸価の滴定に使用する水酸化カリウム標準液に、飽和の水酸化バリウムを入れることになっていますが、これは自分で調製する際の方法です。市販の容量分析用の水酸化カリウム標準液を使用していただいて問題はありません。ただし、水酸化カリウムーエタノール標準液は、油脂をケン化する可能性がありますので、酸価測定には使用しないでください。

・滴定の指示薬として、フェノールフタレイン、アルカリブルー6B、ブロモチモールブルーが記載されていますが、どれを選択するとよいでしょうか?

回答 酸価は、油脂に含まれる遊離脂肪酸を水酸化カリウム溶液で中和滴定する方法です。脂肪酸は弱酸性、水酸化カリウムは強塩基性なので、中和点の液性は中性ではなく、弱塩基性になります。そのため、弱塩基性で色が変わるフェノールフタレインが指示薬として最も汎用されています。弱塩基性で色が変わるアルカリブルー6Bやチモールフタレインを用いても問題ありませんし、これらは濃色の油脂に推奨されています。また、本滴定反応では中性から塩基性にすぐに変わるので、中性付近で色が変わるブロモチモールブルーを用いても滴定値に大きく影響しないと考えられます。滴定の際に終点の判別がつきやすい指示薬を用いてください。ただし、酸性で色が変わる指示薬は使えません。フェノールフタレイン以外の指示薬を用いたときは、その旨を結果に付記してください。

・ ”米ぬか油、とうもろこし油はフェルラ酸エステルなどを含むため・・・ブロモチモールブルー指示薬用いるのが適当である”と記載されています。 なぜブロモチモールブルー指示薬は酸価が過大評価されないのでしょうか。

回答  米ぬか油やとうもろこし油はフェルラ酸エステルを含み、加水分解するとフェルラ酸が生じます。フェルラ酸は分子内にカルボン酸とフェノール性水酸基を持つため、アルカリ性で変色するフェノールフタレインを指示薬に使用すると、カルボン酸とフェノール性水酸基も中和して過剰滴定の要因となります。 ブロモチモールブルー(BTB)は、フェノールフタレインよりも変色域が中性側にあり、カルボン酸が中和された中性領域で変色して過大評価を避けられるので推奨されています。

・フェノールフタレインよりも変色域が塩基側 (pH 9.4~14.0) のアルカリブルー6Bを使用した場合、過剰滴定になりませんか?

回答 指示薬により得られる値はわずかに異なります。アルカリブルー6Bは、色が茶褐色で、遊離脂肪酸以外のカルボン酸を含まない油脂に用い、初めの変色点を終点とすると良いでしょう。フェルラ酸エステルを含むこめ油などにはアルカリブルー6Bは適さず、中性付近に変色点を持つブロモチモールブルーなどが推奨されます。

・滴定の指示薬にブロモチモールブルーを使う場合、溶媒の色は水色か緑色かどちらが良いでしょうか?

回答  ブロモチモールブルーは酸性では黄色、中性で緑色、塩基性で水色を示します。 強塩基の水酸化カリウムで滴定すると、中性からすぐに塩基性に変化しますので、水色でも緑色でも滴定値に大きくは影響しませんが、溶媒の色は、色が変化しはじめる点とするのが良いです。滴定によって溶剤の中和前と同じ色にすることが大事です。

・ 過酸化物価測定に電位差自動滴定が使われていますが、酸価測定には記載されていないのは何故ですか?

回答 電位差滴定とは、酸化還元反応による電位差の変化を測定する方法です。過酸化物価の場合、滴定の際に起こる

I2 + 2Na2S2O3 (チオ硫酸ナトリウム)→ 2NaI + Na2S4O6

の酸化還元反応で生じる電位の変化を測定して、当量点を求めます。それに対して、酸価では、水素イオン濃度[H+]の変化に伴う電位の変化を追います。過酸化物価測定と違い、酸価測定では電位の変化が小さいので、電位差滴定で当量点を求めるのが難しくなります。これが、基準油脂分析試験法に電位差滴定による酸価の測定法が記載されていない理由です。電位差滴定は、電位の変化を測定し、その変曲点から当量点をもとめる方法であり、指示薬を用いた滴定は指示薬の色の変化から終点を求める方法です。指示薬の変色点(終点)は、厳密には当量点ではありません。したがって、電位差滴定法の結果と指示薬を用いた滴定法の結果は必ずしも一致しません。当量点になるべく近い終点を示す指示薬の選択が重要です。

・ そもそも油にはpHが無いのに、 酸価の測定では 酸性分を中和することになっています。有機溶剤中で、油に含まれる遊離脂肪酸のカルボン酸(COOH)のHはH+の状態 で 電離しているのでしょうか?

回答  酸価測定に用いる中性溶剤の半分を占めるエタノールは水と同様に両性プロ トン溶媒の性質を持ち、水の代わりの役割をしています。またエタノールには水を5%添加するので、水が完全に排除されているわけではありません。詳しくは、以下の通りです:酸の強度は、酸の全解離定数に依存しますがこれは溶媒の種類(誘電率)の影響を受けます。 油脂の誘電率は小さい(大豆油の比誘電率は3.0~3.5)ため、油脂中の脂肪酸の全解離定数は極めて小さく、油脂は酸性を示しません。油脂を中性溶剤に溶かすと、その半分を占めるエタノールの比誘電率は24.3と大きいため、遊離脂肪酸の全解離定数は油脂中の値より大きくなります。つまりエタノールが水に変わる働きをします。また、エタノールには水 (比誘電率78.5)を加えており、実質的な溶媒はエタノールと水の混合系と理解されます。

基準油脂分析試験法 2.4.2.3 -2013 脂肪酸組成(キャピラリーガスクロマトグラフ法)

・ 「3 装備及び備品」の項にGCのキャリアガスはヘリウムと指定されています。窒素や水素にキャリアガスを変更しても、2.4.2.3法に準拠したと言えますか?

回答 規格試験法委員会では、現在、ヘリウム代替ガスとして窒素や水素の適否を合同評価しています。 結果をJOS誌で公表した後、代替ガスを用いた試験法の追加や改訂を予定しています。 改訂等は規格試験法委員会のホームページやオレオサイエンス誌などでお知らせしますが、当面、代替ガスを使用の際は、ピーク感度と分離が十分なことを確認の上、結果報告にGC条件を併記してご対応ください。

基準油脂分析試験法 2.4.4.3 -2013 トランス脂肪酸含有量(キャピラリ-ガスクロトグラフ法)

・食品中のトランス脂肪酸含量を表示するに当たって、消費者庁「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針(平成 23 年2月 21 日)」 には 「AOCS Ce1h-05、 AOAC 996.06、またはAOCS Ce1h-05 と同等の性能を有する分析方法で行うものとする」と記載されています。基準油脂分析試験法 2.4.4.3 -2013はAOCS Ce1h-05 と同等でしょうか。

回答 はい、 基準油脂分析試験法 2.4.4.3 -2013はAOCS Ce1h-05 と同等です。

・ 加工食品中のトランス脂肪酸含量はどのように分析したらよいでしょうか?

回答  加工食品から油脂を抽出し、これに基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013を適用して得た分析値を含有量として表記できます 。

・ 加工食品の原料に肉や魚が記載され、抽出油脂に動物脂や魚油が含まれると推定される場合、基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013 は適用できますか?

回答  牛脂・豚脂はAOCS Ce 1j-07の適用範囲に含まれ、基準油脂分析試験法2.4.4.3 2013でも測定可能です 。魚油は適用範囲外ですが、含有量が少なければ基準油脂分析試験法2.4.4.3で問題ないことが多いです。こちらの情報もご参考ください。
魚油そのものを分析する場合、硝酸銀含浸シリカゲルのTLCやSPEで前処理することによりトランス18:1、18:2、18:3(20:1を含む)を測定できますが、炭素数20以上のトランス脂肪酸は測定困難です。

基準油脂分析試験法 2.5.4.2-2013 カルボニル価(ブタノール法)

・測定に適切な1-ブタノールの試薬等級を教えてください。

回答 カルボニル価測定用(022-16591 富士フィルム和光純薬株式会社)や 吸光分析用(B0228 東京化成工業株式会社, 021-14545 富士フィルム和光純薬株式会社 )など、吸光分析グレードの1-ブタノールをご使用ください。

基準油脂分析試験法 2.5.7-13 油脂重合物(ゲル浸透クロマトグラフ法)

・ 分析例でTSKgel G2500HXLのカラムが使用されていますが、TSKgel G2000HXLでも測定できますか?

回答 TAGと重合物の分離能は、 TSKgel G2000HXL (排除限界分子量1万)よりもTSKgel G2500HXL (排除限界分子量2万)が高いことが文献1に示されています。備考③と文献1を参考に、望ましくはTAGと重合物のピーク分離度2.0以上が得られるカラムと溶離条件を設定ください。
  文献1)M. Komoda et al. J. Oleo Science, 54, 529-536(2005)

基準油脂分析試験法 参1.14-2013 共役不飽和脂肪酸 (スペクトル法)

・参考法1.14では、233, 262, 268, 274, 308, 315, 322, 346 nm の吸光度を測定していますが、それぞれどのような化学構造に由来しますか?

回答 これらの波長の吸収は共役エンに由来します。文献~3に記載の波長と化学構造を下表にまとめました。

波長 (nm) 共役エン 幾何異性
233 C18-9,11 di-ene

232 nm, tt;

234 nm, ct/tc;

235 nm, cc

262 C18-9,11,13 tri-ene ctt
268 C18-9,11,13 tri-ene ttt
274 C18-9,11,13 tri-ene cct
308 C18-9,11,13,15 tetra-ene ttcc, tttc
315 C18-9,11,13,15 tetra-ene tttt
322 C18-9,11,13,15 tetra-ene ttcc, tttc

346

375

アルカリ異性化による EPA, DHA penta-ene,

hexa-ene

 

・脂肪酸の構造(脂肪酸鎖の長さ、不飽和結合の数)によって、同じ共役トリエンでも吸光度の極大を示す波長は移動しますか?

回答 移動します。例えばC18-9,11,13 trieneの示す3つの吸収極大は、ctc, ttt, cctの順に長波長側へわずかにシフトします。これはシス、トランス異性の影響と考えられます。また脂肪酸鎖の長さはカルボニル基と共役結合との相互作用に影響し吸収極大波長を変化させると考えられます。文献1図2を参照ください。

・α-リノレン酸の共役トリエンは268 nmに極大を示しますが、EPAの共役トリエンが274 nmに極大を示すことはありますか?

回答 共役トリエンにのみ由来する吸収かは断定できませんが、EPAのアルカリ異性化物のスペクトルには274 nmに極大が観察されます。文献1図9-2を参照ください。

・参考法1.14は、多価不飽和脂肪酸を多く含む油脂にも適用できますか?

回答 酸化が進んでいない多価不飽和脂肪酸(例えば、エイコサペンタエン酸など)のUVスペクトル分析では、指定の波長に極大は観察されません。従って、多価不飽和脂肪酸の多い油脂にも適用できると考えられます。

  文献1)宮川孝明著 紫外線スペクトル分析 油化学11, 568-576(1962)

  文献2)M. Czauderna et al. Czech J. Anim. Sci., 56, 2011 (1): 23–29

  文献3)Tsuzuki et al. Biochimica et Biophysica Acta 1771 (2007) 20–30

参考法1.14回答監修 帝京大学薬学部 本間 太郎博士

基準油脂分析試験法 参2 食品に含まれる脂質の分析法

・ 現在、食品からの脂質抽出にジエチルエーテルを使っています。引火性が高く保有量が制限されるため、代替え溶媒を検討していますが、石油エーテルでは抽出率が低くなった経験があります。クロロホルム・メタノールも避けたいです。環境に配慮した適切な溶媒はありませんか?また、抽出率は変わりませんか?

回答 基準油脂分析試験法 参2.1脂質の定量法には2.1.1ジエチルエーテル、2.1.2クロロホルム―メタノール、2.1.3酸分解、2.1.4ヘキサン-イソプロパノールの4種の溶媒抽出法が記載されています。様々な食品群に対する、各溶媒の脂質抽出率は下記の文献で比較されており、ヘキサン―イソプロパノールは、 他の溶媒と抽出率が概ね同等だが、調製粉乳には不適切な場合があるとされています。文献を参考に、分析対象試料に応じた抽出法を選択ください。
  文献1) 硯弘乃介ら著 種実類・豆類・肉類・卵類および乳類のクロロホルムを 使用しない脂質および脂肪酸分析法の比較検討 日本食品科学工学会誌69, 2022, 557-564(訂正 同誌 70, 2023, 55-61)
  文献2)硯弘乃介ら著 魚介類におけるクロロホルムを使用しない脂質および脂肪酸抽出法の比較検討 日本食品科学工学会誌 69, 2022, 247-257