日本油化学会

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平成28年度 第63回界面科学部会秋季セミナー報告

第63回界面科学部会秋季セミナーを開催しました

界面科学部会部会長 荒牧賢治(横浜国立大学大学院環境情報研究院)

 

 界面科学部会が主催する秋季セミナーを2016年10月31日(月)〜11月1日(火)にIPC生産性国際交流センター(神奈川県葉山町湘南国際村)において開催しました。歴史ある本セミナーも今回で63回目となりました。高台から相模湾と富士山を望める非常に景色の良い場所にあるのですが、残念ながら今年は曇りから雨、二日目の午後になってようやく晴れてきました。晴れた後は素晴らしい景色が見られ、セミナー終了後はしばし堪能して帰られた方も多かったかもしれません。参加者は企業の若手研究員、学生を中心に56名となり、懇親会での交流も盛んに行いました。セミナー全体の主題を「化粧料・洗浄料の先端技術とその応用」とし、以下に紹介した講演を初日に3題、2日目に5題行いました。以下に各講演の概要を書きます.

 初日は14時から17時過ぎまで以下の講演とディスカッションを行いました。野々村美宗先生(山形大学)には「皮膚表面における摩擦現象に着目した化粧料・洗浄料の使用感のコントロール」の演題で、化粧料や洗浄料を使用する時に加わる皮膚表面への力学的・熱的刺激により触覚が喚起されるメカニズムを概説した上で、触覚によって水と油が識別されるメカニズムの解説がありました。さらに、触覚センシングシステムや官能評価手法を用いて、皮膚、毛髪、エマルション、皮膚洗浄剤や化粧用粉体・スポンジの手触りを評価した例の紹介もされました。福田淳二先生(横浜国立大学)には「材料表面の細胞接着性制御と再生医療への応用」の演題で、微細加工技術を用いて作製した凹凸基板に細胞非接着処理を施し、毛髪再生医療への展開を目指している研究を紹介されました。また、材料の細胞接着性を電気化学によりスイッチングし、細胞シートの作成や血管構造を含む立体組織の作製に応用する技術も紹介されました。遠藤知佳先生(ライオン株式会社)には「ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムとドデシルジメチルアミンオキサイドの混合ミセル溶液によるトリオレインの自発的乳化」の演題で、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム(AES)とドデシルジメチルアミンオキサイド(DDAO)によるトリオレインの自発的乳化を実現できることを見出した研究について解説され、その仕組みを利用した台所用洗浄剤開発について紹介されました。

 2日目は朝食後、9時から3時頃まで以下の講演を行いました。粕谷素洋先生(東北大学)には「表面力・共振ずり測定によるトライボロジー評価」の演題で、固体表面間の表面力とその測定についてのイントロダクションから始まり、共振ずり測定や蛍光分光表面力装置等によるトライボロジー評価に適用した例について概説をされました。山口和弘先生(株式会社資生堂)には「塗布膜観察によるサンスクリーンの革新技術」の演題で、SPF値に対するサンスクリーン塗布膜の凹凸の影響についての考察から始まり、その表面状態を新しい観察手法により観察することにより、水に触れてサンスクリーン剤の効果が減じるのではなく、逆に高まることを見出した研究についてお話しいただきました。内山雅普先生(花王株式会社)には「疑似セラミドによる高含水αゲル製剤の開発と肌上に形成する疑似細胞間脂質膜」の演題で、臨界充填パラメータを考慮した処方設計と、小角X線散乱、電子顕微鏡観察により詳細な構造解析を行うことで擬似セラミドを用いた細胞間脂質類似ラメラ構造を肌上に形成する、高含水α-ゲル製剤化技術について紹介されました。坂田修先生(株式会社コーセー)には「製剤成分の物理化学的性質と経皮吸収」の演題で、経皮吸収の薬品物理化学理論について概説していただき、モデル化粧品処方を用いた実際のデータを示しながら製剤構成成分の分子量と表面張力が重要な因子であることを見出した研究についてお話しいただきました。柴田雅史先生(東京工科大学)には「油性ゲルの物性制御と化粧料への応用」の演題で、化粧品に用いられる油性ゲル化剤・増粘剤の種類と、ゲルの硬さ・塗布のしやすさ・オイル保持性などのゲル物性が発現する機構との関連について解説されたほか、口紅スティック、リップグロス、乳化製剤など化粧料を狙いの性能にすることや安定性を向上させるためのゲル化剤の選定・使用方法を紹介していただきました。

 今回のセミナーも無事に終了することができました。ご講演・ご参加頂いた方々、セミナーの準備と進行を行っていた界面科学部会の幹事の方々にお礼申し上げます。

 


講義の様子