去る令和4年12月17日に、日本油化学会の九州地区講演会を兼ねる物理化学インターカレッジセミナーが福岡工業大学で開催されました。ここ2年、コロナ禍でオンライン開催になっていましたが、3年ぶりに皆さんが集まっての対面での開催となりました。まだ、完全に収束していないこともあり、遠方の参加者も宿泊なしで済ませられるように1日での開催にはなりました。しかし、九州各地より、佐賀大学、九州工業大学、福岡大学、第一薬科大学、福岡工業大学などから、教員を含む一般12名、学生37名の合計49名が参加しまし、口頭発表15件、ポスター発表18件の発表が行われました。
特別講演としては、信州大学繊維学部の玉田靖教授による「メディカルを指向したシルク研究」がありました。シルクは衣料用素材として古くから使われており、明治期の日本の殖産興業を支える重要な工業産品でした。シルク工業は、化学繊維の発展に追われ、日本では衰退の一途を辿っていますが、世界的にはまだ多く使われており、成長が止まった産業ではないとのことです。その中で、シルクの化学構造とその特徴を紹介され、メディカル用途などへの展開について紹介されました。シルクは、フィブロイン(繊維)とそれを取り巻くセリシン(膠質)からなり、フィブロインは結晶性が非常に高いものの水に溶解させることで、様々な形状に加工することが可能とのことであった。特に、細胞培養の基材として用いる場合、接着性の細胞がフィブロイン上を適度に運動することで、培養効率が上がるという興味深い性質を持つことなどが示された。コラーゲンなどと類似した点は多いが、コラーゲンでは全く見られない性質も多いことであった。知っているようで、知らなかったシルクの姿を知ることができました。
学生さんを中心にした研究発表では、卒業論文や修士論文への途中段階での発表が多く、これからの成果が期待できるものが多くありました。ここで質問されたことや頂いたコメントは、それぞれの大学での発表会へ向けて、参考になったと思います。これらの発表の中から、参加教員らによる審査により次の方々に優秀口頭発表賞と優秀ポスター発表賞を贈りました。
優秀口頭発表賞
佐賀大学 石見馨一朗 「自己推進をめざした自律拍動カプセルのpH依存性の検討」
佐賀大学 原口椋多 「酸素を発生可能な微細藻類包埋ナノファイバーの調製および機能評価」
福岡工業大学 小栁陸希 「水溶液へのUV照射によるOHラジカル発生について」
福岡工業大学 樋口梨乃 「白いきくらげ粉末を利用した油/水界面の安定化制御」
優秀ポスター発表賞
福岡大学 植田まい 「イオン液体中におけるpoly(2-isopropyl-2-oxazoline)とpoly(N-isopropylacrylamide)の熱応答挙動」
佐賀大学 髙村光希 「脂質の相分離を利用した異種サイズリポソーム融合法の確立と評価」
福岡工業大学 鶴嶋真紅 「桑抽出物のマウスメラノーマ細胞のメラニン産生抑制評価」」
福岡工業大学 岩野広幸 「単分散チタニアナノシート/Ru(bpy)₃²⁺積層カラムナノファイバー」
今後も、界面科学部会九州地区をさらに活性化させるため、研究者間の交流や研究成果の発表の場として本セミナーを盛り上げていきたいと思っています。
(報告・福岡工業大学 三田肇)
全体集合写真
優秀口頭発表賞
優秀ポスター発表賞
特別講演 信州大学繊維学部 玉田 靖 教授
ポスター発表の様子