第66回界面科学部会秋季セミナーが2019年10月17日~18日に観音崎京急ホテルで行われました。開催の数日前には,台風19号による甚大な被害が各地で発生しており,その影響を懸念しましたが,結果的には予定通りに開催することができ,主催者として安堵しました。
今年度は「サステナブルに貢献する界面科学」を主題に設定し,8件の講演で構成されました。講師の先生方を含めると,今回のセミナーには52名の方にご参加いただけました。例年を上回る参加者数であり,「サステナブル」に対する関心の高さを実感しました。以下,各講演の概要を紹介します。
1日目:10月17日(木)
(1)ナノゲルに支配された天然アラビアガムの乳化メカニズム
磯部 紀之 先生(海洋研究開発機構)
アラビアガムとガディガムは天然由来の“サステナブル”な素材です。本講演では,それらの化学構造や自己会合挙動,さらには油水界面への吸着挙動を解説いただきました。油水界面の物性,あるいは乳化系の状態を能動的に制御できる素材として,アラビアガムとガディガムの有望性が示されました。
磯部先生による講演
2)パーソナルケア用洗浄料における新価値の創出
柿澤 恭史 先生(ライオン)
カチオン性のポリマーとアニオン性の界面活性剤が水中で混合されると,それらの複合化によりコアセルベートが形成されます。本講演では,シャンプーの希釈(すすぎ)過程で生じる“きしまない”感をコアセルベートの析出により付与した事例,およびにコアセルベートの析出により肌の保湿効果を高めたボディーソープの事例について解説いただきました。
(3)自己乳化現象を巧みに利用した「超低密度」多孔質バイオマテリアルの創製
村上 義彦 先生(東京農工大学)
水よりも沸点の低い有機溶媒中に疎水性高分子を溶解し,これを水中で分散・乾燥させる「液中乾燥法」はマイクロカプセルを得る一般的な手法です。しかし,疎水性高分子に官能基が存在しない場合には,その表面を化学的に修飾することは困難でした。本講演では,両親媒性ブロック共重合体を共存させることで,疎水性高分子の化学構造によらず表面修飾を可能にしたこと,および攪拌条件を適切に設定することで「発泡」したような細孔を微粒子の表面に形成し得ることが紹介されました。
村上先生による講演
2日目:10月18日(金)
(4)リポソーム製剤の基礎と核酸医薬への応用
高島 由季 先生(東京薬科大学)
リン脂質によるベシクル(リポソーム)はDDS製剤のキャリアとして利用されています。本講演では,リポソームに関する基礎知見から,最新の研究事例(pH応答性・温度応答性・光応答性リポソーム等)・製剤事例について解説いただきました。
高島先生による講演
(5)バイセルの開発と化粧品への応用
紺野 義一 先生(コーセー)
バイセルは脂質の二重膜構造からなる分子集合体の一種です。本講演では,化粧品素材としての応用を目的に,各種バイセル系の構造・物性評価結果が示されました。また,コレステロールやセラミドをバイセルに内包できること,およびリン脂質によるベシクル(リポソーム)よりも角層への浸透性が高いことも示されました。
(6)バイコンティニュアスマイクロエマルション型クレンジングの進歩
渡辺 啓 先生(資生堂)
マイクロエマルションを製剤基盤とするクレンジング剤(メイク落とし)の開発について,解説いただきました。“よく落ちる”と“さっぱりする”を両立したクレンジング剤が希求されている背景の下,これまでに開発されてきた“バイコンティニュアス型(リキッド)”,“濡れた手で使用できる”,“泡状”など,相図の考え方も交えながら解説されました。
(7)ポリグリセリン系界面活性剤のαゲル形成と乳化特性
樋口 智則 先生(太陽化学)
サステナブルな素材として,ポリグリセリン脂肪酸エステルがあります。本講演では,その分子構造,相挙動,可溶化挙動,乳化挙動,αゲル形成挙動などを解説いただきました。ポリグリセリン脂肪酸エステルを用いて調製した乳化クリームには,特有な感触(塗り広げの心地よさ)があることも紹介されました。
(8)サステナブル界面活性剤 バイオIOS
坂井 隆也 先生(花王)
洗浄分野で利用されている界面活性剤の多くがヤシ油やパーム油を原料としている中,近い将来,「洗剤の原料が足りなくなる」可能性があるとの説明がありました。このような背景の中,天然原料(安価で,かつ食油と競合しない天然油脂原料),高い界面活性(少量でも効果的),ならびに高い水溶性(硬水にも溶解可能)を実現したバイオIOS(インターナルオレフィンスルホン酸塩)について紹介されました。
今年度は日本化学会・コロイドおよび界面化学部会が主催する国際会議の関係で,例年よりも早い10月の開催となりましたが,次年度は通常のスケジュールに戻し,11月に開催する予定です。参加者アンケートでいただいたご意見も参考に,講演内容も検討してまいりますので,次年度も積極的なご参加をお待ちしています。末筆ながら,今回のセミナーでご講演いただいた講師の先生方,および開催にご尽力いただいた部会幹事の皆様に厚くお礼申し上げます。
界面科学部会部会長 酒井健一
(東京理科大学理工学部先端化学科)