平成25年1月11日(土)、12日(日)の両日、油化学会界面科学部会の九州地区講演会を兼ねて、物理化学インターカレッジセミナーが福岡大学セミナーハウスで開催されました。佐賀大学、福岡大学、福岡工業大学、長崎国際大学など九州各地の大学からの参加があり、参加者は招待講演の講師2名、一般(教員を含む)16名、そして学生42名の計60名でした。発表件数は、特別講演2件、一般および大学院生・学部生による口頭発表8件、ポスター発表14件と、ほぼ例年並みでした。
1日目には、大阪大学総合博物館(兼、同大理学研究科)教授の上田貴洋先生に「NMRで見るナノ制約分子 ? 微小空間を舞台にした分子科学 ?」というタイトルで特別講演をしていただきました。まず、NMRスペクトルの線幅、線形、緩和時間の測定から、様々な分子運動に関する情報がどのように得られるかの説明がありました。その後、ナノ制約分子の例として、活性炭素繊維(ACF)中のナノ空間に閉じ込められた、重水やアダマンタンの分子運動が温度によってどのように変化するか、また、多孔性配位高分子のIRMOF-1中に閉じ込められたシクロヘキサンがどのような相転移を起こすかなどについて、NMRの結果を中心に、興味深い内容を紹介していただきました。非常に分りやすい明快な講義でした。
また2日目には、福岡大学名誉教授の井上亨先生に「ミセルに始まりミセルで終わった40年」というタイトルの特別講演を行っていただきました。タイトルのように、これまでに行ってこられたミセルの研究を紹介されました。温度や圧力のジャンプによる緩和、すなわち化学緩和法からは、ミセルの緩和時間の逆数と界面活性剤濃度の間に直線関係があることが指摘されていましたが、それは対イオンが高濃度の場合でのみ起こり、低濃度では緩和時間の逆数にピークが出現することを紹介されました。また、ユタ大学麻酔科に留学されていた。
ときに行われた、リン脂質ベシクルへの麻酔剤の影響についても話をされた後、最近行ってこられた研究、すなわち、界面活性剤がイオン液体中でどのように振る舞うかについて話されました。イオン液体?界面活性剤の系は水?界面活性剤の系とよく似た振舞いをするそうです。どの話も分りやすく、この分野で研究を行っていく若い研究者に非常に参考になったように感じました。
これらの特別講演以外に、一般参加者および学生による口頭発表とポスター発表が行われました。界面科学に関する様々な分野で研究を行う研究者や学生が互いに議論を交わすことができ、非常に意義のある時間を過ごせたように思います。今年度も2名の外国人による口頭発表が行われ、国際色も豊かになっています。今後更に界面科学部会九州地区の研究を活性化させるため、研究者間交流や研究成果の発表の場として、本セミナーは重要な役割を担っていると思います。
なお、今年度のセミナーは福岡大学理学部化学科の祢宜田啓史と渡辺啓介が世話役で開催しました。平成26年度は佐賀大学大学院工学研究科・滝澤登先生のお世話で開催される予定になっています。
(報告:福岡大学理学部化学科 祢宜田啓史)