部会活動

日本油化学会第56回年会 界面科学部会シンポジウム 報告

副部会長 荒巻賢治(横浜国立大学)

界面科学部会シンポジウムは、年会2日目の9月12日(火)9:00から10:00にE会場で開催されましました。

シンポジウムの座長は酒井俊郎先生(信州大学)が務め、2件の講演を行いました。最初は日本大学薬学部の橋崎要氏による「レシチン逆紐状ミセルの皮膚適用製剤基剤としての可能性」,次に荒牧による「再生可能資源由来の界面活性剤を用いたひも状ミセル形成」という演題です。橋崎先生の講演ではレシチンと水などの極性物質からなる混合物をオイル中に溶解させることで形成されるレシチン逆紐状ミセルの構造と溶液の物理的特徴について最初に紹介していただきました。つづいて,レシチン逆紐状ミセルを皮膚に適用した研究はまだ少なく、薬物の皮膚透過に関するメカニズムについては十分な検討がなされていないことから,テストステロン(TES)を用い、薬物含有レシチン逆紐状ミセルの物理化学的性質ならびに皮膚適用製剤としての特性について検討を行った経緯について説明いただきました。TESの皮膚透過速度(Flux)が水およびD-リボースを極性物質として用いた基剤の場合にコントロールよりも有意に大きくなることが示されました。皮膚塗布後に皮膚の水分を基剤が吸収することで逆紐状ミセルからラメラ液晶への構造転移によりTESの溶解性低下が引き起こされることがわかり,そのためにTESは基剤中で一時的な過飽和状態となり、Fluxが増大したというメカニズムについて説明がありました。続いて,荒牧の講演では天然物由来原料から合成された界面活性剤の利用可能性を探るために、糖、脂肪酸、アミノ酸、ステロール類などを用いて合成された界面活性剤によるひも状ミセルの形成を行った研究について紹介しました。ショ糖脂肪酸エステルは主に食品用乳化剤、分散剤として用いられている非イオン界面活性剤であり、温度変化や電解質の共存に対して親水性-親油性バランスの変化が少ない特徴をもっています。直鎖脂肪族アルコールや脂肪酸を加えることでひも状ミセル形成が誘起されました。また,油中でも逆ひも状ミセルが形成される例も紹介しました。その他,アシルグルタミン酸,ポリ(オキシエチレン)コレステリルエーテルによる同様の研究例について紹介したのち,最近の研究であるイソソルビド系界面活性剤を用いた系について説明を行いました。

講演後会場からの質疑応答も活発であり、有意義なシンポジウムであったが,他の会場でコロイド・界面化学のセッションが同時に開催されたため,参加者数は40名程度にとどまり,通常より少なくなってしまったことは残念でした。

写真1 橋崎先生の講演後の質疑応答の様子