会長からのメッセージ (2015.1.1)
「新年を迎えて」
−競争と協働−
宮 澤 三 雄
公益社団法人日本油化学会会長・近畿大学教授
平成27 年を迎え,心よりお慶び申し上げます。会員の皆様にとって本年が良い1 年となりますよう,祈念申し上げます。
グローバル世界では,地球全体規模で文化・経済等が発展・変動し,今まで以上に日本の力量や品格が問われています。様々な面で私達を取り巻く環境は厳しく,至る所で忍耐を要する状況にあります。また,学術面での国際競争も激しさを増し,我が国の油化学研究の発展は学術先進国との競争下にあります。そういう中にあって常に研究者は何を行い,企業は何をするのかという課題がつきつけられています。そのためにも, @Globalization(グローバルレベルでの科学的知識と技術),A Originality(自由闊達なアイディアをもち,独創的・先駆的な研究をする能力),B Ability(科学的な諸問題に対応し,解決できる能力),そしてC Charity(科学を通じて社会に貢献できる豊かな人間性)の4 本の柱立てが重要であると考えています。
さらに,グローバル社会にあっては,多様な社会に対応して,持続可能なより良いイノベーションのシステム構築が求められています。そして現代は,何よりもスピードが必要不可欠であり,弱点をカバーすることに留まるのではなく,国際的状況や我が国の科学的研究・技術の情報を共有しながら,国際的視点での競争と協働の両立が必要です。競争に耐え得る強い部分は伸ばしていき,弱いところは他者と協働することが重要です。
現在,私達,日本油化学会はアジア諸国からの信頼獲得を指標の1 つにしておりますが,「アジアの中のJOCS」を,より一層の高みに到達させるためにも,人間の成長過程と同様,「受け取る側から与える側へ」移行できる存在として,今後益々進展していかねばならないと考えています。
次に2 件の話をご紹介いたしたいと思います。
「希望の建築」 ―生徒が教えてくれたもの― (某地方紙 掲載記事より)
ある建築家が,養護学校の設計を依頼された。当初,彼は,養護学校としての機能性だけを重要視し,標準タイプの設計,たとえば真っ直ぐなスロープや一般的なエレベーターの設置を考えていた。最短で移動が出来れば,人に優しい設計だと思い込んでいたそうだ。ところが,そこに通学する生徒達の意見は,それと違っていた。「1階と2 階を上下する時,外が見えるエレベーターに乗りたい!」「頑張って自分1 人で移動してみたい日もある」「ぐるーっと回れるスロープから屋内の各室が見渡せると楽しいし,友達とも触れ合え,お喋りもできる!」などの意見が続出した。彼は,近道ばかりに気を取られ過ぎると,見落としかねないものがあるのだと,改めて建築に向かう際の原点を考えさせられたそうだ。結局,その建築家は,1F と2F を「らせん状のスロープ」と「ガラス張りのエレベーター」の両方で結ぶ設計に変更し実現に至った。
2011 年3 月11 日の東日本大震災後,その養護学校は地区の避難所として,充実した機能を果たしたそうだ。
“See, what I mean?”
私は,1985 年に渡米し,米国ミシガン州立大学(MSU)の博士研究員として2 年半の留学時代を過ごしました。諸外国からの研究員と共に研究に邁進していたある日,私は1 日の実験を終えて帰宅しました。その晩,恩師宅に大学内のRI 検査局より研究室内の汚染クレームの電話が入ったとのこと。翌朝,私は,その件について先生より説明を受けました。勿論,私自身のミスなので,私1 人で作業をしようと準備していましたら,予想に反して,恩師が率先して汚染箇所の修復作業に加わって下さり,“Mitsuo! See, what I mean?”と優しく語りかけて下さいました。その後も先生は折に触れて,研究者として未熟な私にフラットな立場で,教授して下さいました。私が学んだヒューマニティ溢れる研究者魂を,次世代の若い科学者達に受け継ぐべく,今決意を新たにしているところです。
最後になりましたが,現在,本会ではいくつかのAWARD を設けております。昨今,科学が職業化・大衆化され,実利と結びつく傾向にあるように感じています。しかし,科学研究はどんな分野でも「自然の解明」を起点とし,「人類への貢献」が根幹にありますので,新年にあたり,もう1 度AWARD の意味とその意義とを再考する時間が必要だと感じております。
Message from President
会長からのメッセージ (2014.1.1)
「新年を迎えて」
−原点回帰−
宮 澤 三 雄
公益社団法人日本油化学会会長・近畿大学教授
平成26年の新年を迎え、心よりお慶び申し上げます。会員の皆様にとって本年が良い一年になりますよう、祈念いたします。
私は日頃、大学教育においては「米百俵の精神」を忘れずに、若い研究者を育てていきたいと考えています。また研究に対しては、今まで自分が積み上げた仕事を、更に探求し続けていきたいと考え携わっています。しかし、ある日どうしても腑に落ちないことに遭遇し、大変疲労を覚え、大学の近くを散策し、歴史小説家・司馬遼太郎氏の記念館を訪れました。記念館近くの中小阪公園内には司馬氏の『21世紀に生きる君たちへ』(記念館の基調でもある)という文学碑が建っていました。これは司馬氏自身が21世紀を迎えられないことを予期し書かれたもので、まさしく司馬氏が残した次代の子供達への遺書メッセージとも言えるものです。いかにすれば未来を担う子供達に自分の想いが伝えられるか、長編小説を書くほどの力強い熱意が込められています。
その碑には次のような一文が刻まれています。
「君たちは、いつの時代でもそうであったように、自己を確立せねばならない。
―自分に厳しく、相手にはやさしく。
という自己を。
そして、すなおでかしこい自己を。
21世紀においては、特にそのことが重要である。
21世紀にあっては、科学と技術がもっと発達するだろう。科学・技術がこう水のように人間をのみこんでしまってはならない。川の水を正しく流すように、君たちのしっかりした自己が、科学と技術を支配し、よい方向へ持っていってほしいのである。」
資源に乏しい我が国では、科学研究と技術そして科学産業・工業がしっかりしていなければ、国もまた破産してしまう危惧を抱いています。たしかに科学技術の発展は多くの人を豊かにします。そして科学の発展には必ず経済的な状況が付随します。近視眼的には功利主義が当面の目標のように思えますが、しかし、その勢いに呑み込まれて人間として大切なものを失ってはいけない、どのような領域の研究開発技術であろうと、基盤は「人間のために」であらねばならないと思います。
記念館を後に、私は時世時節を超越して不変なるもの、原点回帰の決意を新たにした次第です。
1.第52回年会の報告 (2013年9月3日〜5日 於:東北大学川内北キャンパス)
人類にとって、未曾有の大震災から、早2年半以上が経過しました。
被災現場で皆さんが協力して事態収拾にあたる姿に、我が国の力強さと明日への大きな希望を見ることができました。
第52回年会会場の東北大学も多くの被害を受けたと伺いましたが、開催の場を快く引き受け、ご尽力下さいました実行委員長の宮澤陽夫先生に、心から御礼を申し上げます。また、本年会開催に際しまして、数多くの企業・団体から多くのご支援、ご協力を賜り、本当に、ありがとうございました。今回の年会(参加者516名、講演件数197件)の主なテーマは、「人々の健康長寿への油化学の貢献」と「大学と油脂産業界の連携による新価値の創出」の2つでした。このテーマに関連して、実行委員長講演1件、特別講演3件、受賞講演2件(学会賞1件・進歩賞1件)、市民公開講座講演1件、特別シンポジウム講演4件、シンポジウム講演14件、部会シンポジウム講演9件、第13回油脂優秀論文賞講演会10件、そして一般講演153件(口頭発表96件、ポスター発表57件)で行いました。本年会では、特に油化学の明日を担う学生・院生や若手研究者が参加しやすい環境整備を整えました。若手研究者へのメッセージとして実行委員長講演を企画し、若手を主体にしたシンポジウムを組み、学生参加費を抑え、学生・若手研究者の素晴らしい発表についてヤングフェロー賞3件、学生奨励賞10件を選考し、懇親会で表彰しました。また懇親会は東北大学キャンパスの川内の杜ダイニングで行い、214名も参加していただき大変活気ある交流の場となりました。
2.第53回年会のお知らせ (実行委員会―北海道大学・藤女子大学・帯広畜産大学・北海学園大学・北海道医療大学・酪農学園大学・弘前大学等)
1)会期 2014年(平成26年) 9月9日(火)〜11日(木)
2)会場 ロイトン札幌(北海道・札幌市)
3)懇親会 9月10日(水)(第1回アジアオレオサイエンス会議との合同開催)
3.第1回アジアオレオサイエンス会議(ACOS2014)開催のお知らせ (実行委員長―北海道大学大学院・宮下和夫教授)
本会議では、オレオサイエンス発展の重要性についての共通認識をアジア諸国の研究者と共有すると共に、ACOSで得られる恩恵をアジア諸国と分かち合うことで、関連産業の益々の発展に寄与したいと考えています。
1)会期 2014年(平成26年) 9月8日(月)〜10日(水)
2)会場 ロイトン札幌(北海道・札幌市)
3)主催 ― 日本油化学会。韓国油化学会・マレーシアパーム油協会・アメリカ油化学会他と連携。
4)エキスカーション 9月10日(水)
5)懇親会 9月10日(水)(第53回年会との合同開催)
4.JOSインパクトファクターの推移
JOSへの投稿の半分以上は日本国外からであり、特にインド、マレーシア、イラク、中国、トルコ、タイといったアジア諸国から多くの投稿がありました。学問の発展を目指すはずの学術論文が、世界的にインパクトファクターでの点取り合戦になってしまっている傾向があり、懸念を抱きます。真の学問への貢献度を評価するには長い時間の経過が必要です。しかし、昨今の研究成果審査等に論文数、引用度、インパクトファクター、特許数等の数値が導入されている現状の中では避けられない指標の一つです。
JOSのインパクトファクターの推移は、下記の通りです。
2010年 1.094
2011年 1.417
2012年 1.242
どうぞ、本年も日本油化学会が、油化学研究情報の発信と受容の場となり、新たなネットワーク交換の場となりますことを、心から願っております。
会員の皆様のさらなるご支援とご協力をよろしくお願い申し上げます。
Message from New President
会長からのメッセージ (2013.5.1)
「アジアのリーダーとしてのJOCS」
−油化学研究・技術を支える人材の育成と交流・活用の場としての学会活動を−
宮 澤 三 雄
公益社団法人日本油化学会会長・近畿大学教授
私は、この度、阿部正彦会長の後を受けて、今年から2年間、会長の職を務めさせていただくことになりました。伝統ある日本油化学会の舵取りを任され、任務の大きさに身の引き締まる思いです。民主的運営を柱に、良き伝統を守り、時代に即応した焦点をより鮮明にし、また若い世代に対しても一層の求心力を持つ学会を目指して活動していきたいと考えております。会員の皆様、力不足の私をご指導、ご鞭撻の程、何卒よろしくお願い申し上げます。
日本油化学会は、故田中芳雄会長のもと、1951年に創立され、61年の長い歴史を持つ学会です。本学会は、「油脂・脂質,界面活性剤及びそれらの関連物質に関する科学と技術の進歩を図り,産業の発展及び生活と健康の向上に寄与すること」を指標とし、社会の構築を支え、様々な課題の解決に資する基盤的学会であり、人類の将来に大きな責任を負っております。
天然資源の乏しさは日本の宿命です。だからこそ、わが国は科学で知的財産を生み出し、科学技術力を基盤に経済を発展させ、繁栄させなければなりません。現在の経済的繁栄や国際的地位の確立は、科学技術・学術の力によるものであったことは、衆目の一致するところです。したがって、次世代に向けた科学者・技術者の育成は重要課題の一つです。国際競争が激化する状況下で、日本油化学会は本分野研究と技術開発をリードし、人材育成の責任を果たすため、学術基盤を拡大・充実させ、「頼られる学会」として、社会に貢献し、発信力を高めていく必要があります。そのため学会機能を充実させるための改革を進めて参りたいと思います。
昨今、グローバル化の加速が進み、ナショナルという存在が薄れ、情報格差も無くなりました。グロバリゼーションの利点を上手く用いて、創造的なイノベーション社会をつくり上げるには、スピーディーな英断が求められ、競争と協力の双方が必要です。我々の美点を活かしながら、弱点は海外の長所を補完財とする方法は、先見の明があると思います。どこの国が勝つのかではなく、人類の Quality of Life 向上のために、地球上の誰と何処と手を組めば推進できるのか、また共に何を克服しなければならないのかという命題を解き、その為に研究者・技術者は何を行い、企業は何をすべきなのかという大きな構想に立った課題と対峙すべきです。
私は、まず「 アジアの中のJOCS 」を意識し、アジア諸国からの信頼獲得に努めたいと存じます。JOCSが、今後ますます発展し、油化学研究の進展と地球規模での研究者間の情報交換促進上で、一層貢献できるよう、微力ながら全力を尽くす所存でございます。