恒例の界面科学部会主催の秋季セミナーが2003年11月13(木)〜14(金)日に箱根町湖尻にあるホテル箱根アカデミーで開催された.このセミナーは第1回目が1960年8月に長野県戸隠で開催されてから今年で43年目であるが,初めは年に2回開催されたこともあって,今回は記念すべき第50回であった.セミナーは清里や伊豆,八王子セミナーハウスなど色々なところで開催されてきたが,最近は連続12年間「箱根アカデミー」で開かれており,界面科学部会の秋季セミナーと言えば「箱根のセミナー」で通じるようになっている.伝統あるこのセミナーは,講師を中心として泊まり込みで勉強し,さらに友好を深めあうことを特徴としてきた.
今回は「化粧品,食品,医薬における界面活性物質の応用と機能化技術」という題目で企業,大学とバラエティーに富んだ講師陣で行われた.主催者である横浜国立大学の國枝先生等の御尽力で泊まり込みにもかかわらず参加総数63名の盛況ぶりで50回を飾るにふさわしい内容と盛り上りであった.参加者の顔触れも新入社員から中堅まで,さらに丁度日本に滞在中のスペインのグラナダ大学,スペイン国立高等研究機構などからも3名の参加が
あった.
東名の事故の影響で開始に間に合わなかった方もおられ,午後1時からのセミナーのスタートが多少遅れたが,まずは國枝先生の開会の挨拶から始まった.初めの講演は東京大学工学研究科の片岡一則先生の(1)「高分子ナノミセルによる薬物・遺伝子のピンポイントデリバリー ナノテクノロジーが拓くフロンティアメディシン」であった.「必要な時(timing)に,必要な部位(location)で,必要な薬物治療(action)」を最小限の副作用で達成する高精度ターゲティング治療を目的に,ナノスケールで精密合成された高分子鎖のアセンブリーに基づいて形成されるナノ構造体(高分子ミセル)を薬物や遺伝子のキャリアとして用いるナノ医療システムを分かりやすく説明された.
続いて,信州大学理学部の尾関寿美男先生が(2)「界面の機能化のための基礎化学」というタイトルで講演された.微小系の機能化のためには,界面を把握し,制御することが不可欠で,系の大きさや形と性質の関係を理解するための理論と実験の基礎,特に表面活性,表面構築,細孔構築,吸着について詳しく解説された.
3番目の講演は横浜国立大学環境情報研究院の國枝先生で「Worm-likeミセルの研究の最近の発展」というタイトルで話された.棒状のWorm-likeミセルはゲル状態になり,粘弾性をしめし,化粧品,医薬,農業,食品などの分野で基剤となりうる.現在,このWorm-likeミセルは非イオン,カチオン性,アニオン性界面活性剤を問わず,生成することが明らかになってきたとのこと,さらに,界面活性剤の増粘性の主原因であるWorm-like ミセル系の相平衡,粘弾性,構造について分かりやすく解説された.
つづいての講演は,三菱化学(株)食品機能材料研究所の石飛雅彦先生の(4)「ポリグリセリン脂肪酸エステルの相挙動とその応用」であった.ポリグリセリン脂肪酸エステルは,食品添加物として認可された可食性の乳化剤であり,食品や化粧品に広く利用されている.講演ではポリグリセリン脂肪酸エステルの相挙動に対するポリグリセリンの重合度およびその分布,エステル化度,脂肪酸種の影響について述べられた.さらに,ポリグリセリン脂肪酸エステルの乳化,可溶化等への応用についても紹介された.
いずれの講演も講師の先生方の熱が入り,聴衆からの質問も数多く,予定時間を屡々超過したために結果として,箱根の温泉に入る暇もなく懇親会が開かれることになった.
ライオン(株)の岡野知道氏の恒例の名司会で,國枝先生の挨拶と最年長の出席者である東京理科大名誉教授の北原文雄先生の挨拶と乾杯の音頭で懇親会はスタートした.1次会,2次会と懇親会は盛況のうちに続き,名刺交換,談笑と会場の使用時間を過ぎても楽しい宴は続いた.小生は少し早めに失礼したが,最後は廊下の椅子で和気藹藹と3次会も開かれていた.
翌日は朝食の後,ライオン(株)研究技術本部プロセス開発センターの阿部裕先生が(5)「有機結晶の多型現象とその応用」という講演をされた.有機結晶はその存在環境によって様々な結晶系に変化し,機能発現に様々な影響を与える.有機結晶が含まれる製品において,多型現象は溶解特性や製品の保存安定性などに深く関わっており重要である.多型の交換メカニズムから製品応用時の機能まで,特に両親媒性分子での事例を中心に話された.
7番目の講演として(株)コーセー開発研究所の内藤昇先生が「リン脂質の化粧品への応用」というテーマで話された.リン脂質が化粧品に古くから保湿剤,乳化剤,分散剤などの用途に用いられてきたこと,又,最近ではリポソーム製剤などに見られるように高機能素材として見直されつつある.化粧品素材としてリン脂質の特徴を活かした化粧品の応用例として,乳化製剤およびリポソーム製剤について解説するとともにその化粧品としての有用性について話された.
続いて,味の素(株)の阪本一民先生が(8)「アシルアミノ酸系界面活性剤の自己組織化における界面制御」というタイトルで講演をされた.アシルアミノ酸系界面活性剤は相対的に大きな親水基と分子間水素結合が可能なアミド基を持つこと,さらに天然系アミノ酸は分子不斉を持つなど,通常の界面活性剤にない構造的特徴を有する.このような分子構造特性の活用による自己組織化構造の制御について解説された.この後,昼食(ハヤシライス)となった.
午後一番はワールド技研 菅沼進先生と日立計測器サービス(株)の鈴木邦昭先生の両先生によるリレー講演で(8)「プラズマ装置によるナノ粒子の製造とシリカ膜の表面処理および分析装置によるナノ粒子評価」という表題で話をされた.化粧品への紫外線遮蔽を目的として酸化チタンの応用を実際の製品を皆に回覧させながら紹介し,ナノ粒子の特徴や効果を元に具体的な製造法と品質管理法について述べられた.
セミナー最後として,東京理科大学工学部の河合武司先生による(9)「両親媒性化合物薄膜の機能と膜構造との関連性評価?振動分光法によるアプローチ?」という表題の講演がなされた.赤外および和周波分光法による両親媒性化合物の薄膜評価法について説明された後,膜構造と機能発現との関係について,さらに膜のミクロ構造を制御することによって分子認識能が発現する事例について紹介された.
北原先生によれば,第21回セミナーまでは3泊4日で,その後1泊2日や2泊3日がしばらく続き,最近はみな忙しくなったせいか1泊2日に収束したそうである.しかし,3泊4日のときも今回の1泊2日と同じ数の講演だったそうで,そのためか講演時間いっぱい気を込めて拝聴しているとかなりくたびれたが,有意義なセミナーであった.
予定よりのびて午後3時30分に終了した.その後アカデミーの玄関前で全員が写真をとり,解散した.
<文章>岩橋槇夫(北里大学)
<写真>(上から順に)
(1)東京大学片岡先生によるご講演風景
(2)界面科学部会長 横浜国立大学國枝先生
(3)懇親会風景
(4)夜を徹して飲みつづけるグループも
(5)神奈川大学 田嶋先生と